先日ボストンに行ってきました。
目的大きく2つ、フェンウェイパークを見ることと、大学のスポーツ施設を見ることでした。
フェンウェイパークではあの有名なグリーンモンスターやコンコースの作りなど様々な個所を見ることができました。(個人的に神宮球場と似たようなものを感じましたが、勘違いですかね。。)また、レッドソックスvsヤンキース戦が行われており、たまたまマー君の活躍も観ることができたので良かったです。
大学スポーツ施設も、ハーバードとマサチューセッツ工科大学(MIT)2校の施設を観てきました。両校ともスポーツではあまり名門ではないのですが、ハーバードは大学にハーバード・スタジアムという1903年に建設された歴史的なスタジアムがあり壮大でした。またスケートリンクも通年で氷が張られており、うらやましい限りでした。。
とまあ訪問の目的は達成できたのですが、今回この記事でお伝えしたいのは、私がボストン旅行中合間に行って、一番観て考えさせられたBoston Landingです。
Boston Landingとは、New Balance DevelopmentがボストンのBrightonに開発している地域で、ここにはNew Balance本社、NHLチームBoston Bruinsの練習施設と、NBAチームBoston Celticsの練習施設、そしてアパート、レストラン、小売店、ホテル、スポーツジムなどが集まっています。(詳細は上記リンクを参照)
一番存在感を示しているのは、やはりNew Balanceの本社で、大きくてユニークな形をしていました。
圧巻です。
こちらはBoston Bruinsの練習施設である「Warrior Ice Arena」です。
Celticsの練習施設「Auerbach Center」は外からしか見学できませんでしたが、中の様子はYouTubeでご覧ください。
もちろんNew Balanceのショップやその他レストラン、カフェもオープンしていました。
今後はスポーツジムや屋内のTrack & Field Complex、ホテルなど順次オープンしていくものとみられます。
このようにBoston Landingでは、NHL、NBAの練習拠点を始めとした多くのスポーツ施設を設置し「スポーツによるまちづくり」を進めていることがわかました。
しかしこのまちづくり、私が今まで見てきた「スポーツによるまちづくり」とは少し違った部分が感じられました。
「スマートベニュー」をご存知でしょうか。
スマートベニューとはスタジアムやアリーナを中心としたまちづくりで、スポーツだけではなくその周辺に商業施設などを設置することによって、全体で活性化していこうという主旨の地域活性化構想です。
2013年に日本政策投資銀行によって提言され、最近各地でこの構想を参考にしてまちづくりをしていこうという自治体が多く存在しています。
事例としてよくあげられるのは、ロサンゼルスにあるStaples Centerで、このアリーナはアイスホッケー、バスケ、コンサートなどで使用され全米屈指の稼働率を誇っており、周辺には映画館、ホテル、ショッピングセンターなどから構成される「L.A LIVE」として複合型都市開発を実現しています。
(参考:https://www.dbj.jp/pdf/investigate/etc/pdf/book1407_02.pdf)
しかし、今回見たBoston Landingはその構想の考え方とは違った点が見られます。大きな相違点として考えられるのは「核となるプロフィットセンターがない」ことです。
これまで見てきたスポーツを使ったまちづくりの大きな目的は、地域の収益を上げることでした。
スタジアム・アリーナでスポーツイベントやコンサートなど様々な催しが行われ、そこに人が集まり、周辺の商業施設なども活気づき、そこに収益が生まれるという構造だったと思われます。
このBoston Landingには、人が集まるスタジアム・アリーナではなくNHL、NBAの「練習施設」が建てられました。NHLのWarrior Ice Arenaには600席ほどの観客席はあるものの、NBAのAuerbach Centerは選手・関係者以外は立ち入ることができません。
こちらの記事によると、デロイトのコンサルの方も「New Balanceとして大きな収益性は見込めない」と述べています。
そこまでして、New BalanceがこのBrightonの地域開発する狙いはどこにあるのでしょうか。
ここからは仮説になりますが、New Balanceの狙いは大きく2つあるかと思います。
①スポンサー契約の獲得
New Balanceは、かつてNBA選手数名とシューズの契約をしていましたが、現在は誰とも契約を結んでいません。現在はNIKEの寡占状態です。また、NHLの選手も同様にスポンサー契約を取っていない状況です。
そういった現状を打破するために、まず両チームに練習拠点を提供し選手に対して常に近い存在になるということは、今後の企業にとって大きなメリットになる可能性があります。
実際Warrior Ice ArenaにはNew Balanceのアパレルや靴が展示されており、選手たちは日ごろからNew Balanceの商品を見ることになります。
おそらく、このように選手と物理的に触れ合う機会を増やすことにより、知名度を上げ、まずは地元の選手とのスポンサー契約に結び付けようという狙いがあるのではないかと感じました。
②独自のスポーツ文化の醸成しプレゼンスを向上
見に行ったときはまだ閑散とした状況でしたが、この地域には今後275戸のアパートメントが建設される予定で、多くの住人が住むことになります。
New Balanceを中心としたこの地域に住む住人にとって、練習拠点が近いことは自然とこの両チームをサポートすることにつながり、またスポーツジムなどの施設も整っていることから自らも健康のためにその地域でスポーツに取り組むといったスポーツ文化が醸成されるのではないかと思います。
もともとボストンはスポーツが盛んで子供の頃から様々な試合の応援に行くということが当たり前となっているようなので、ある程度のスポーツ文化はもう作り出されていると思われます。
その文化をさらに発展させるとともに、New Balanceが地域に根差した新たな独自の地域文化を作り出すことにより、一般市民に対して企業の存在感を向上させることができるのではないかと思いました。
そしてもしこの2つの狙いが功を奏し、New Balance自体の利益につなげることができれば、さらにその地域に投資することができ、企業も街も両者で発展することができるといった循環を生むことができます。
今までの直接的な利益を生みだそうというまちづくりとは違い、まずは街に投資し、自社のボストンでのプレゼンスをあげていく、そしてそれを利益につなげ、また街に還元していく。そうしたまちづくりのあり方は、まだ実現されているわけではありませんが、非常に面白い形だと思いました。
MIT’s Center for Real EstateのディレクターAlbert Saiz氏は、Boston Landingは「sports city within a city」になると述べています。
これまでの考えとは少し違った形のまちづくりの発見でしたが、今後このBoston Landingが発展し、「スポーツによるまちづくりによって企業と街が発展する姿」を見ることができれば、また新たなまちづくりのモデルとなる可能性があります。
まちづくりに関わっている方々にとっては、恐らくこれまでスマートベニューにおける事例などが真の「スポーツによるまちづくり」と思われてきましたが、ここで一度一歩引いて、スポーツを使ったユニークなまちづくりの姿を再度考えてみるとよいかもしれません。
NYC Sports Report
2018年6月からの3か月間、ニューヨークに滞在中に訪れたスポーツイベントや施設などをお伝えいたします
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