酷暑問題から見る組織の柔軟性

ニューヨークは先週の8/28(火)、8/29(水)大変な暑さに見舞われました。

最高気温は36℃に達して、湿度も高かったため体感気温は40℃近くあったと思われます。


その結果、ニューヨークの郊外にある「USTAビリー・ジーン・キング・ナショナルテニスセンター」で今週8/27(月)から開催されている、テニスの全米オープンにも影響がありました。

郊外といってもマンハッタンから車で30分ほどのところなので、市内と気温はあまり変わりません。そのため、全米オープン2日目と3日目はこのうだるような暑さの中で試合が行われていました。


大会運営側も、この気温の中さすがに普通に試合を行うわけにはいかないと対策を打ちました。それが、「エクストリーム・ヒート・ポリシー」です。(参考:リンク


このポリシーでは、「第3セットと第4セットの間にコート外で10分の休憩が認められる」というもの。ジョコビッチ選手が出場した1回戦でもこのポリシーが適用され、10分間の休憩の間にアイスバスに入ったそうです。


実はエクストリーム・ヒート・ポリシーは、女子プロテニス協会(WTP)では1992年から「気温が摂氏35度以上になった場合、最終セットの前に、10分間の休憩が認められる」というルールが設けられていましたが、これまで男子プロテニス協会(ATP)には定められたルールがありませんでした。

今回は暫定的にこのルールを男子にも適用している形ですが、大会後には正式に明文化されると思われます。


この決定について、個人的に見習うべき点と少し残念な点があると思っています。


まず見習うべき点は、「米テニス協会USTA)の迅速かつフレキシブルな対応」です。


最高気温が36℃と発表された8/28(火)の午後1時、暑さがピークに達する前に、USTAから正式にエクストリーム・ヒート・ポリシーの適用が発表されました。

その日の午前中に大会関係者、USTAなどで話し合われ、決定されたものと思われます。また暫定的なルールのため、選手やコーチなどにはルールが書かれた紙が渡されたそうですが、その準備も含めて行われていたのかと思います。

このエクストリーム・ヒート・ポリシーの適用以外にも、選手に対して氷の入ったタオルが用意され、セット間にはこのタオルを巻いて休憩が取られていました。こちらもあの暑さの中であれば必須のものだっと思います。

1日に5万人以上が集まるビッグイベントにもかかわらず、このように素早くルールを制定し、実行する組織体制が築けていることに関しては、素晴らしいことだと思いました。


一方、残念な点ですが、こちらは対応が「10分間の休憩」にとどまってしまったことだと思います。個人的には、「〇〇℃で試合順延」まで踏み込んだ対策が取られても良かったのかと思います。


全米オープンはスポンサー企業約20社、世界各地での生中継がされ、観客も世界各地から来場するニューヨーク、アメリカの一大イベントです。その経済効果は900億円とも言われています。

そのようなビックイベントでの試合の日程変更は、選手だけでなく観客にももちろん影響を与えるため、できるだけ避けたいということは十分にわかります。


しかしテニスの場合、雨天の時に試合は順延されるため、そのような日程変更の対応には慣れているはずなのにも関わらず、対応できなかったことは少し残念に感じました。




この一連の対応から、少し残念だった部分はあれど、やはり日本が学ぶべき、また東京2020で参考にすべきは前述したとおり、「迅速かつフレキシブルな対応」だと思います。

今年の甲子園、熱中症対策として初めて「給水タイム」が取られました。

給水タイムとは、開会式中に水分補給をしたり、プレー時間が長くなった場合は試合を中断して、水分補給のための休憩を入れることです。

そもそもこれまで給水の時間を取っていなかったことに驚きを隠せませんが、こうした対策が取られてもなお、球審が熱中症となったり、開会式では女子学生が倒れこんでしまう状況です。


今回恐らく「給水タイム」の制度を取っただけでも、高野連の中では「大改革」だったと思われます。

しかし、この暑さはもう依然と比較して尋常ではないものとなっているため、すでにこの対策を取ってもあまり「意味のないもの」になっていることに早く気付いてほしいです。対応があまりにも遅いのです。

もう少し前からこの制度を導入していれば、早々にこれだけの対策では不十分だということに気づき、次なる手を検討し始めることができたかもしれません。


また、大会中も熱中症患者が出た際、「給水タイム」以上の対策は何か打てなかったのでしょうか。そういった議論はなされたのでしょうか。

連日ニュースでは熱中症の患者数が発表され、熱中症が日常のありふれた病気の一つのように報道されていることから、感覚がマヒしてきしているのだと思いますが、熱中症は死につながる危険な症状です。

そのことに対する認識があまりにも欠けているのではないでしょうか。




以前から私はスポーツに限らず、アメリカは時代の変化に対応した柔軟性を持ち合わせていることが良い点だと思っています。

時代の変化が早い昨今、「行動してみてダメだったら、別の行動を試してみる」そのようなマインドを持ち合わせ、また意思決定を早めなければ、社会、自然に適応していくことが今後ますます難しくなってくると思います。


この夏、酷暑のニュースが相次ぎましたが、このような暑さ関連のニュースが多くなると、「本当に地球温暖化は進んでいるんだな」と実感します。

恐らく来年も再来年も、暑さ問題は続くと思われ、2年後の東京オリンピック・パラリンピックでもきっと苦しめられることになるでしょう。

現在「サマータイム」の導入など非現実的な対策も取られようとしていますが、何より大切なのは、その時の状況を踏まえて、いかに柔軟な対策が取れるかなのではないでしょうか。


オリンピック・パラリンピックは様々な利害が絡んでいることもわかります。しかし何より大事なのは「人の命」です。

選手に関わらず、観客、運営スタッフに対して的確に、そして柔軟にどこまで対応できるかがオリンピック・パラリンピック成功のカギとなってくると思います。


東京オリンピックまであと2年、そのために考え得る暑さ対策はきちんと整えることはもちろん、大会期間中は、TPOに合わせて迅速に対応を決定するためのリスクマネジメントプロセス、また各リスクに対する意思決定者を確立して、柔軟性のある組織作りをしてほしいと思います。




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